― 統合知 ―
入学生の皆さん、ご入学おめでとうございます。保護者の皆さまにも、心からお祝いを申し上げます。ご来賓の皆さまには、日頃のご支援と、本日のご参列に感謝申し上げます。
さて、ご存知 ヒポクラテスの『箴言』は、ars longa vita brevisとはじまります。このarsは、英語ではart。わが国では「学問」、「芸術」、あるいは「医術」と訳され、たとえば「学問は長く、人生は短い」というふうに使われてきました。ヒポクラテス自身にあっては、しかし、学問も芸術も医術も、渾然と一体をなしており、けっして分かれるものではありませんでした。
今日、皆さんは、学部では、生産システム科学部、保健医療学部、国際文化交流学部、大学院の専攻では、生産システム科学専攻、ヘルスケアシステム科学専攻、グローカル文化学専攻、のいずれかの学部、専攻に入学して来られました。中等教育は、あたかも人間を理系、文系の二種類に分けるような区分けをしてきていますが、はたして如何なものかと、わたしは思っています。一見、それに接続するかに見える、高等教育での学部・専攻構成ですから、皆さんの中には、ひょっとすると、理系、医系、文系の三種類の人間ができるような感じを抱いている人もいるかもしれません。が、それは、正しくありません。たしかに、修めようとする専門は個々に多様ですが、皆さんは、根本を同じくする、ただ一種類の人間として、大学、あるいは大学院に入学して来られたのです。
大学の学びでは、総合的な「統合知」を培うことが重要です。統合知とは、文理の垣根を超えた広い関心と視野、柔軟な応用を可能とする確かな基礎力です。これがあってはじめて、専門を鋭く磨いたり、進路を適切に選択したり、社会に出て活躍できるわけです。本学の学士課程では、入学から一年半にわたって、3学部ともに中央キャンパスで初学者教育、共通教育が行われます。大学院博士前期課程では、「専門共通科目」、「分野横断的専攻専門科目」、博士後期課程でも、「研究科共通科目」を修了要件としています。これにより、「総合知に立脚し、高度な専門能力を備えた人材」の育成を目指しています。本学の大学院は、one and the same、「サステイナブルシステム科学研究科」という一研究科のみであります。じつは、いざ文理融合をやろうとすると、文科省のガードは固い。そこで、大学院研究科の設置を国に申請するにあたり、富士山のようなポンチ絵を示して、考えを説明しました。富士山のいただきには静岡県からも山梨県からも達することができますように、本学のどの学部・専攻からも到る高みは同じです。本学における皆さんの学びでは、ぜひ他の学部・学科、他の専攻の教員や学生とも交流し、統合知の涵養を図っていただきたいと思います。
この意味からも、言語を介するコミュニケーション力や表現力の鍛錬と、人間関係の構築が、大学・大学院生活を送るうえで大切です。言語というものについて、哲学者、中村雄二郎は、つぎのように書いています;「言語は一面理性的ですが、純然に理性的だと論理記号になってしまいます。だから必ずある含みをもっており、我々が使っている自然言語というものは両方を期せずして含んでいます」。そして言語は、アリストテレスが「共通感覚 common sense」とよんだ、感情と理性の中間のレベルにある、と説きました。
公立小松大学は、皆さん一人ひとりへの学業・生活・就職支援にも注力します。今年度には、志村副学長を長として、職員・学生支援に関係する全ての部署、センター類を統括し、きめ細やかな支援を行う、「ヒューマン・リソース・コーディネーション機構」を発足させたところです。 経済学者の宇沢弘文先生が社会的共通資本の中で、もっとも重視したのは、教育と医療でした。誰一人おろそかにしない、それが教育と医療に共通する特徴であり、使命です。公立小松大学は、誰一人とり残しません。
新入生の皆さんの学業の成就と学生生活の充実を祈り、併せて、本日ご参集のご一同様のご健勝、弥栄、益々のご発展を祈念し、告辞といたします。